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フリーソフトで構造解析に挑戦


          

FEM用のソフトウェアは数十万円から100万円を超えるものまで、幅広い価格帯のものが販売されています。どの会社のソフトウェアを使っても、メッシュを作成して、条件設定後に計算する方法は同じですから、操作手順にほとんど違いはありません。

2016年時点では、最高価格帯のソフトウェアでも使用可能メモリは16GB程度が上限のため、パソコン側の性能が全体の計算精度を決めています。つまり、複雑な構造や大きい対象物では、メッシュを細かくするとメモリーが足りなくなるため、メッシュサイズを十分細かくできないことがあります

今回の挑戦では、メモリーを16GB積んでいる3Dグラフィック用のパソコンと、無料のDEXCS(デックス)というCAEソフトを使って、複合材の解析を行ってみます。DEXCSの操作方法については「はじめてのオープンCAE(I.O BOOKS)」を参考にしました。


複合材のカーボンフレームを構造解析


最近では、航空機から自動車、自転車にカーボン複合材が使われるようになりました。これは、鋼材と同程度の強度を持ちながら、1/10の軽さに軽量化できるという炭素複合材料の長所を活かして燃費改善や高速化を図るためです。

しかし、まだまだ炭素繊維は高いので、使われているのはどちらか言えばフェラーリのような高級車やグレードの高いロードバイクに限られています。そのため、日常生活ではあまり目にしないかもしれません。

自転車のフレームはクロモリ、アルミ、カーボンなどの材料で作られています。上りコースでは、早く走るために軽量化が求められるため、各社とも上位グレードのフレームにカーボン素材を使用しています。そのカーボンのシートポストが折れた(地面と水平方向に破断)している写真を見たことから、FEM(有限要素法)を用いた応力解析によって破壊の原因を検討してみることにしました。

カーボン繊維は日本企業が世界の中でトップシェア(約70%)を持つので、航空機から自動車、自転車に使われるカーボンは日本製と考えてもよさそうです。カーボンフレームの複合材には、航空機にも使われているカーボン繊維と同じグレードを使用すると仮定して、実際に測定した複合材の物性値を用いて構造解析の計算を行います。

複合材(カーボン+樹脂)の物性値

  1. ヤング率:30GPa
  2. ポアソン比:0.45
  3. 許容応力:100MPa

平均破壊応力は500MPaであったため、安全率を高めに設定して許容応力を100MPaに設定しました。


カーボンシートポストの図面と3Dモデル

解析に用いるカーボンのシートポストは61mm×40.2mmの涙滴型、肉厚は1mmです。


     

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メッシュの作成


フリーのCAEソフトながら、DEXCSにはメッシュサイズの指定、1次要素と2次要素の選択などができるため、メモリー容量が許す限り細かいメッシュサイズにしました。要素数が多すぎる場合は、メッシュの生成が途中で止まってしまいます。

スーパーコンピューターによるメッシュ生成では、メモリー容量が多いため、失敗することはめったにありません。そのため、パソコンのメモリー容量を考慮しながら、計算できる最適なメッシュサイズを探して、何回もメッシュ生成をするのは手間に感じます。

メッシュの作成

2次要素でメッシュを生成します。


拘束条件と荷重条件の設定


カーボンシートポストの下面をX,Y,Z軸に対して移動しないように固定します。また、上面には体重100kgの人が座ることを想定して、上から下に向かってかかる荷重を計算します。

荷重の計算

シートポストの断面積は151.3mm2、自転車に乗る人の体重:100kgと仮定します。

単位面積あたりにかかる荷重は

(100kg×9.8m/s2) / 151.3mm2

=6.5N/mm2 となります。

シートポストの下面は固定、上面には下向きの荷重を設定

シートポストの下面は固定、上面には下向きに6.5N/mm2の荷重を設定する。


構造解析の結果を確認


カーボンフレームのモデルにかかる応力は、ほぼ緑色なので8N/mm2程度(=8MPa)と判断します。

この結果から判断すると、体重100kgの人が乗ったとしてもカーボンシートポストの許容応力である100MPaまではかなり余裕があるので、破壊されることはありません。

許容応力100MPaに対して8MPaしかかからないので、破壊されません

拘束面はx,y,z軸で固定しているため、赤矢印の位置で応力(11N/mm2)が局所的に高くなっていますが、実際には拘束面のカーボン繊維複合材も移動できるため、この応力集中は無視できます。


100kgの人が乗った場合に生じる応力(8N/mm2) < 許容応力(100N/mm2)

実際には、体重が全てシートポストにかかることはなく、ハンドルやペダルに分散してかかります。さらに、繰り返し荷重の影響を考慮しても、人の体重程度でカーボンのシートポストが破壊されるとは思えません


複合材特有の設計の難しさ


フレーム素材が金属であれば上記結論で話は終了しますが、複合材の場合はさらに検討が必要になります。カーボン繊維は細長い繊維なので、樹脂で固めて複合材にしないとばらけてしまいます。

炭素繊維を複合材にする場合は、一般的にエポキシが繊維と繊維間の接着に利用されます。炭素繊維は直角方向の応力には弱いので、0°と90°のように繊維の方向を変えて配置します。しかし、応力がかかる方向を考えずに成形してしまうと、応力方向の繊維量が少なくなる可能性があります。

荷重方向と繊維の方向が許容応力の違いにつながる

上から荷重がかかるならば、右図のように0°方向の炭素繊維量を増やす必要があります。


繊維量が全く同じでも、左図は0°方向の繊維量が少ないため、CAEによる強度計算の結果よりも低い応力で破断する可能性があります。その際の破断面は応力と直角に現れますが、まさにカーボンシートポストが折れた写真もそのような破断面になっていました。


結論としては、荷重方向に対応したカーボン繊維量を確保していない設計ミスの可能性が高いと考えられます。もっとも、軽量化のためぎりぎりまで減肉させた特注カーボンシートポストや体重が300kgあるならば、設計ミスではないかもしれません。

        

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