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横浜みなとみらい地区の流体解析(CFD)


          

1980年台から高層ビルが建てられ、都市計画の整備が進められている横浜みなとみらいの風の流れを流体解析(CFD)により可視化します。みなとみらい地区には、高さ296mの横浜ランドマークタワーをはじめ、クイーンズスクエアなどの高層ビルが立ち並んでいます。

横浜ランドマークタワーは1993年に開業していますが、当時はスーパーコンピューターを使わなければ街全体の風の流れを調べることができず、模型を制作して行う風洞試験による環境影響評価が一般的でした。近年は、並列コンピューターの活用により、スーパーコンピューターを活用した解析と同じように各地点の風の流れの数値化も可能になり、自治体からの流体解析(CFD)による解析の依頼も増えつつあります。

今回の横浜みなとみらい地区における流体解析は、国土地理院地図およびGoogleマップの3Dを利用して作成しました。デモンストレーションのため、細かい形状は省略していますが、並列コンピューティング(16コア)によりメッシュ作成は5分程度、流体解析は15分程度の時間で完了しています。

コア数を増やすことにより、メッシュサイズをさらに細かくすることができますが、メッシュ化するための計算時間が長くなります。解析精度と計算時間のバランスを考えてメッシュサイズを決定する必要があります。今回はCFDを紹介するための解析であるため、粗いメッシュで解析を実施しています。


横浜みなとみらい地区の3DCADモデル

横浜みなとみらい地区を流体解析

Fusion360を使って横浜みなとみらい地区の3Dモデルを作成しました。国土地理院の地理院地図とGoogleマップを使い、横浜みなとみらい地区にある建物を3D化します。高層ビルの高さはデータベースを参考に3DCAD化しているため正確ですが、ビルの形状については建築図面からではなく地図を基にしているため、実際の形状とは異なる可能性があります。

建築図面があれば、より正確な建築物の3D化が可能になりますが、今回は都市の風の流れを流体解析でデモンストレーションすることを目的としているため、地理院地図を基に3Dモデルを作成しました。


横浜港からのみなとみらい地区の眺望

横浜みなとみらい地区-写真
          

解析ソフトに取り込みメッシュ作成


Fusion360で作成したCADデータをSTEPまたはIGES形式でエクスポートします。KDYエンジニアリングでは3DCADソフトとして主にFusion360を使っていますが、STEPまたはIGES形式で3DCADモデルがエクスポートできれば、どの3DCADソフトを使っても問題ありません。

解析ソフトに3DCADモデルをインポートし、メッシュを作成します。メッシュを細かく配置するほど解析結果は正確になりますが、メッシュ作成に必要なコンピューターの計算量が増えてしまいます。そのため、高層ビル周辺のメッシュは細かく、建物の存在しない空間はメッシュを粗くすることで、必要な計算量を削減しています。下図はデモ用に粗いメッシュサイズに設定していますが、並列コンピューター(16コア)の使用により5分程度でメッシュ化は完了しました。コア数を増やすことで、細かいメッシュを短時間で作成することが可能となります。


3DCADにより作成した高層ビル群のメッシュ化

横浜みなとみらい地区の3DCADデータを取り込みをメッシュ化

横浜みなとみらい地区で最も高い横浜ランドマークタワーが建てられた1990年代であれば、高層ビル群の流体解析を行うためにスーパーコンピューターが必要であったため、街全体のビル風の影響等を高層ビル建設前に流体解析により検討するといったことは、あまり行われていませんでした。

2010年代頃からオープンソースの解析プログラム「OpenFORM」と大規模サーバーの時間単位の活用が容易となり、組み合わせることで大規模な解析が短時間で行えるようになりました。また、3DCADソフトの低価格化もあり、都市の流体解析が気軽に行えるようになりました。KDYエンジニアリングにおいては、高層ビル以外にも、大型商業施設や工場、石油製油所のタンク等の台風時の流体解析に関する依頼が増えつつある状況です。

     

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15m/sの南風と西風を設定


2018年台風24号の接近により、横浜地方気象台では、最大風速19.1m/s(南南西の風)、瞬間最大風速38.5m/s(南西の風)を記録しています。今回の解析では、15.0m/sの風速を設定し、南風、西風それぞれの風の流れを可視化します。

解が収束し、変化が見られない状態になったことを確認します。反復計算の結果は、275秒を過ぎると上下はあるもののほぼ一定となるため、300秒で計算を終了させました。


収束判定

CFD解の収束判定

空気の物性値を入力


今回の流体解析では空気の流れを解析するので、空気の物性値を入力します。

空気の密度は1.206kg/m3、動粘性係数の値は26.5℃の値である15.79☓10-6m2/sを使います。密度や動粘性係数の値は、熱物性ハンドブック(日本熱物性学会)を参考にしています。


材料 動粘性係数(m2/s) 密度(kg/m3
空気 15.79☓10-6 1.206

横浜みなとみらい-南風を可視化


自由に利用できるオープンソースプログラム「ParaView」を使って、解析結果を可視化します。風の流れを可視化していますが、線が多いと見づらいため、横浜ランドマークタワー周辺の流れだけを可視化しています。

歩行者が風の影響を受ける高さ(地面から1.5m)の風速0m/sの地点を青、風速15m/sの地点を緑、風速30m/sの地点を赤で表示しています。

南風は15m/sに設定していますが、ビルを回り込む風により、風速が2倍以上になり30m/sに達する地点の存在が予想されます。瞬間風速15m/sでは、意思通りの歩行は不可能で風に飛ばされそうになるとされていることから、台風接近時等の強風の発生が予想される場合は、横浜みなとみらい地区では勤務者の早めの帰宅、外出を控えることの呼び掛けが重要になると考えられます。


南風の流れを可視化

横浜ランドマークタワー周辺の風の流れを可視化

横浜ランドマークタワー周辺の風の流れ

1ビル風の影響を可視化

ビルの後方には渦が発生

CFDによりビル後方の渦を可視化

解析結果では、横浜ランドマークタワーの周辺に赤色の風速30m/s以上を示す範囲が広がっていますが、実際には植栽が植えられており、また、幅広く低層部が設けられていることから、ビル風は解析結果より抑えられている可能性があります。


高層ビルが受ける風圧

高層ビルの風圧も流体解析により同時に計算

流体解析といえば、風の流れのシミュレーションをイメージされる方が多いと思いますが、同時に高層ビルが受ける風圧も計算することが可能です。上図では、高層ビルの受ける風圧をPa (パスカル)で表わしています。

日本では過去に台風の影響で高層ビル(東京都港区)の7階と8階にまたがるアルミ製外装材が落下し、周辺のビルにぶつかる事件が発生しました。JIS A4706:2015では、耐風圧性による等級と性能を定めており、高層ビルではS-6(2800Pa)またはS-7(3600Pa)等級が選定の目安となっていることから、今回の解析結果の500Paに対して十分に余裕のある耐風圧性が規格では設定されていることが確認できます。


西風の流れを可視化

横浜みなとみらい地区の風の流れを可視化

高層ビル後背地の風の流れ

高層ビル後背地の風の流れ


横浜みなとみらい-西風を可視化


南風と比較すると、西風の場合は風速30m/sを超える範囲はあまり広がっておらず、ヨコハマ グランド インターコンチネンタルホテル周辺およびクイーンズタワー間に赤色範囲が目立つ程度となっています。

西風は遮るもののない海からの風ですが、高層ビル間の間隔が広く、また、最も西にあるインターコンチネンタルホテルが抵抗の大きい平面形状ではないことも風速の増加を小さくしていると考えられます。高層ビルによるビル風対策としては、植栽等も効果を発揮しますが、ビルの角を丸く設計したり、ビル間の間隔を開けることも有効であることが確認できました。


Paraviewの設定


Paraviewでは下記のとおりフィルターを設定すると、上図のように風の流れを可視化できます。オープンソースの可視化ソフトであるため、最適なフィルターを見つけるまでは試行錯誤を繰り返す必要がありますが、自由度が高いため操作に慣れると可視化したいデータを見やすく表示できる特徴があります。

なお、解析結果のデータをお渡しすれば、お客様のパソコンでも無料のParaviewを使って可視化し、お客様自身で好きな角度から解析結果を確認することも可能です。


Paraviewのフィルタ設定

Paraviewのフィルタ設定

横浜市中高層建築物等の建築に係る条例


横浜市中高層建築物等の建築及び開発事業に係る住環境の保全等に関する条例では、計画上の配慮事項として①日照、②観望、③交通、④駐車場および駐輪場、⑤色彩等の調査の5項目を周辺の住環境に影響を与える事項として挙げています。

多くの自治体では環境影響評価条例を見ると,大半でビル風について触れられていますが、横浜市の条例では「風」について触れられていません。横浜は海からの風が比較的強く吹き、また地形の高低差もあることから、「風」についても配慮することが望ましいと考えます。KDYエンジニアリングが流体解析を実施しますので、横浜市の建築物についてもお気軽にお問い合わせください。地元なので現地調査も可能です。

風洞試験のような模型を作成することの多い高層ビル以外の建築物においても、身近になっている流体解析を活用することにより、低コストで周辺への風の影響を検討すること可能です。高層ビル建設後に住民からの苦情により対策を検討するようではリスク対策が後追いになり、また対策費用も高額になるケースが多くなりがちです。計画段階での防風対策の検討・実施により、 費用対効果が大きくなるケースが多いため、今後ますます客観的に数値評価のできる流体解析の利用が増えると予想しています。

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