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特異点(Singularity)とは


          

構造解析では、解析対象物を有限要素法(FEM)などの手法によって細かなメッシュに分割します。メッシュ作成後に固定する面(拘束面)や荷重などの解析条件を設定しますが、連立方程式の解が無限大になる(応力が不連続になる)点が生じ、この点を特異点と呼びます

特異点が存在する場合は、計算結果として表示される最大応力を、そのまま許容応力と比較することはできません。なぜなら、特異点は計算が収束しないために生じる点であり、実際の応力を反映しているわけではないからです。

          

特異点の現れやすい形状

  • メッシュの角度が変化している箇所(フィレット、切り欠き)
  • 拘束面の近傍
  • 応力が一点に集中している箇所

ここでは、手計算によって求めた片持ち梁の最大応力(理論値)と、CAEを使って求めた特異点が存在する場合の最大応力値を比較します。特異点が存在する場合、CAEによって算出される最大応力は理論値より大きな数字になります。

特異点による応力集中箇所を避けて応力を測定することで、理論値に近い応力が把握できるので、ぜひ参考にしてください。


手計算で応力の理論値を求める


最初に曲げモーメントを計算します。
曲げモーメント=0.5m☓1,000N=500N・m

次に長方形の断面2次係数を計算します。
断面2次係数=(0.05m×(0.02m)2 ) / 6 =(3.333☓10-6)m3

断面の最大応力

最大応力=(500N・m / ((3.333☓10-6)m3
150MPa

片持ち梁の寸法を荷重条件

上図の片持ち梁では、右末端面に1,000Nの荷重を掛けた場合、左端の断面に生じる応力は150MPaになると予想されます。

それでは理論値が求まったので、CAEによる計算結果と比較してみましょう。

     

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特異点付近の応力分布を見てみよう


左端を固定端(X、Y、Z軸に対して固定)、右端に1,000Nの荷重条件を設定しています。たわみは10倍に拡大して、片持ち梁の変位を目視で確認できるようにしています。

片持ち梁に荷重を加えた場合のたわみと応力分布
    
     

CAE結果と理論値との差異

理論値は150MPaですが、CAEによって求めたミーゼス応力の最大値は152.3MPa、主応力の最大値は213.2MPaとなっています。固定端である左端に最大応力が出るはずですが、ミーゼス応力の最大値は少し右側に寄っています。

ミーゼス応力(152.3MPa)

拘束面近傍のミーゼス応力

主応力(213.2MPa)

拘束面近傍の主応力

特異点が出現した原因は?


金属原子は、結晶の中で僅かに動くことができます。ところが、左端の面を固定したことにより、金属原子が動けなくなってしまい、実際には原子がずれることで集中しない応力が発生してしまうのです。そのため、特異点近傍の応力は理論値より高くなります。

拘束面の近傍以外にも、フィレットや鋭角な角度変化がある箇所では、4面体や6面体で構成されるメッシュに角度がついてしまうために、特異点が出現しやすくなります。


特異点による応力集中箇所を避けて評価する


特異点によって応力が高く算出されることがわかっていれば、応力集中箇所を避けて応力を測定することで過剰評価を防げます。下図の解析結果では応力の強弱を色分けして表示していますが、赤色で表示されている箇所が応力集中箇所です。

解析モデルの最大応力を測定すると当然この赤色箇所が含まれてしまいます。そこで、応力集中箇所の右側に測定ポイント(赤枠内)をずらして、応力を測定します。

片持ち梁の固定端近傍の応力集中

片持ち梁の特異点による応力集中

応力集中箇所を避けて測定面を設置

特異点による応力集中を避けて応力を把握
    

特異点を避けて応力評価するとほぼ理論値と一致

理論値は150MPaでした。測定面におけるミーゼス応力は148.1MPa、主応力は150.6MPaと表示されており、理論値の150MPaとほぼおなじ値になっています。

ミーゼス応力(148.1MPa)

ミーゼス応力は理論値とほぼ同じ値になった

主応力(150.6MPa)

主応力は理論値とほぼ一致している

特異点を避けて応力を測定すれば、ほぼ理論値と同等の値になることが確認できました。特異点による応力集中の有無は人間が判別しなければなりません。将来はコンピューターが自動判定してくれるようになるかもしれませんが、現在は応力評価を人間の手で行うことが求められます。

角度が変化している箇所、拘束面の近傍では、特異点による応力集中が起きやすいので、CAEの表示結果を鵜呑みにせずに測定点を検討しましょう

また、全ての角をフィレットにすれば角度変化は少なくなりますが、細かすぎる形状ではメッシュ作成が難しくなる場合があります。実際に機械加工できないようなRにすると解析に失敗することもあるので、特異点発生を避けるためだけのモデル修正はしない方が無難です。


特異点がある場合の応力評価


CAEを活用すれば、人間には処理できない複雑な形状でも解析することができますが、特異点という思わぬ落とし穴が存在しています。応力の特異点が存在する場合、最大応力を正しく評価するためのポイントは次の4つです。

  1. 近似図形の理論値が計算できるのであれば、参考にする
  2. メッシュの角度が変化している箇所では特異点の存在を疑う
  3. 拘束面の近傍では特異点の存在を疑う
  4. 解析条件を変えて複数回の解析を行い、応力の特異点かどうか判断する
  5. 応力の特異点があれば、応力集中箇所を避けて最大応力を求める

上記の1~4までは、全て特異点かどうかを判断するための方法で、特異点になりそうな箇所に予め見当をつけることができます。特異点であることがわかれば、応力を過剰評価してしまう可能性を少なくすることができます。

逆説的ですが、特異点が存在すると最大応力は高めに算出されるため、結果として設計が安全サイド寄りになります。そのため、設計に余裕がある場合は、正確な応力評価にこだわらず、特異点の最大応力を採用することで、設計条件以上の荷重条件がかかっても破壊されない安全な構造にすることができます。


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