構造解析を利用すると設計段階から強度を確認することができます。構造解析を使わずにイスを設計するならば、100kgの人が座っても壊れないことを確かめるためには、実際に100kgの重りをイスに載せる必要があります。
しかし、この方法ではイスの試作品を作り、重りを載せて試験を繰り返す必要があり、手間とコストが掛かってしまいます。構造解析を活用すれば、設計段階でイスにかかる応力を把握することができ、試験を行う前に問題がないかどうかの判断ができるようになります。
このページでは、設計段階から構造解析を活用することで、設計効率を向上できることをイスを使って説明しています。イスに100kgの人が座った場合のミーゼス応力をシミュレーションで求め、許容応力と比較することで安全に座ることができるのか検討します。
イスの材質は、ステンレス鋼(SUS304)と木材(座る部分)です。
イスの外観
材質はステンレス鋼と木材
3DCADでイスを制作後、解析ソフトにその3Dモデルを取り込みます。ファイル形式が「IGES」や「STEP」であれば、ほとんどの解析ソフトに取り込むことができます。
自動でメッシュ作成しますが、最初はメッシュサイズを1番粗く設定します。要素は「2次」に設定します。メッシュサイズが細かくなるほど、要素の数が増えるため解析に必要な時間が増加します。パソコン1台であれば、要素数が100万を超えるとメッシュを作成するだけでも数時間必要になるかもしれません。
メッシュを自動作成
1番粗く設定しても結構細かい
上の画像は、1番粗いメッシュサイズに設定して、2次要素でメッシュを自動作成しています。要素の数は約85万ですが、並列コンピューティングを利用しているので、メッシュ作成時間は10分もかかっていません。
構造解析は、メッシュの細かさによって解析精度が左右されます。一度の解析では解析精度が不明であるため、メッシュを更に細かくしながら複数回解析を行います。メッシュが細かくなると外観が黒一色に表示されてしまうため、細かいメッシュの画像は載せていませんが、複数回の解析を行い解析精度を確認しています。
構造解析では、固定する箇所を設定する必要があります。XYZの3方向と回転を固定することができ、固定する方法の設定を「拘束条件」と言います。イスであれば、地面と接する下図(赤色で表示)が拘束条件を設定する箇所になります。
「拘束」する条件によって解析結果が変わるので、実際のイスにかかる荷重とその結果を想定して拘束条件を決定します。例えば、XYZの3方向全てを[拘束」することもできるし、または上下方向だけ動かないように拘束して、左右に少し動けるようにするといった拘束条件を設定することもできます。
構造解析の拘束条件などを設定する場合は、実際の試験結果に基づいて条件を確かめる方法が最も確実です。様々な条件設定ができるため、試行錯誤を繰返しながら実際の試験結果に近づけていく作業が必要になります。
イスの拘束箇所
構造解析では、2つ以上のパーツを組み合わせた構造の解析を行うことができます。パーツが組み合わさっている場合は、パーツの接触箇所を設定する必要があります。
解析するイスでは、座る部分の木材と木材を支えるパーツが接触するため、下図のように接触箇所を設定します。
下図では木材の全面を接触面にしていますが、ボルト・ナットで固定している場合は、ボルト・ナットを解析条件に加えるとより正確な解析結果につながります。
座る部分の木材
木材を支えるイスのパーツ
ほとんどの解析ソフトには、各材料の物理的性質データが予め入力されています。しかし、各規格や製鋼メーカーの製品によっては、解析ソフトに初期設定されている数値と材料の物性値が異なることがあります。そのため、初期設定値をそのまま使うのではなく、実際に使用する材料のデータを自分で入力する必要があります。
イスの金属部分はステンレス鋼(SUS304)、座る部分には木材を使用しているので、それぞれの物性値を入力します。この解析例では、以下の数値を使用しています。
なお、今回の解析では降伏点を超える応力がかかることは想定していないため、線形解析を行います。
材料 | ヤング率(GPa) | ポアソン比 | 密度(kg/m3) |
---|---|---|---|
SUS304 | 197 | 0.3 | 7930 |
木材 | 12 | 0.1 | 500 |
イスに100kgの人が座ることを想定して、座る部分に掛ける荷重を最初に計算します。計算式は次の通りになります。単位換算のミスが多いので、計算式の途中でも必ず単位は記入するようにしましょう。
100kg☓9.8m/s2=980N
イスに掛かる荷重は980Nなので、座る部分に980Nの荷重を下向きに設定します。以上で解析条件の設定は完了したので、最後に解析を行います。
構造解析により「主応力」や「ミーゼス応力」などの様々な応力を計算して可視化することができます。今回は計算時間を短縮するために「ミーゼル応力」と「変位量」の項目を選択しました。
980Nの荷重を掛ける
座る部分に下向きに980Nの荷重がかかります。体重が100kgというと平均よりは重いのですが、身長の高い人や体格のよい外国人であればそれほど珍しくないので、今回の解析例では100kgの人が座るという設定にしています。
SUS304の許容応力は、JIS B 8265(2003)では129MPa(~40℃)とされています。そこで、解析したミーゼス応力が129MPaに達すると赤色で表示するようにしました。
下記の解析結果を見ると、イスに掛かる応力が許容応力以上となっていることがわかります。許容応力を超えてもすぐに破壊につながるわけではありませんが、設計を見直す必要があると判断できます。
実は、構造解析を活用することで実際に壊さなくても問題の有無が把握できることを示すため、わざと肉厚を薄くして許容応力を超えるようにしています。SUS304の引張強度は520MPaなので、許容応力を超えたからといってすぐに壊れるわけではありません。しかし、設定されている許容応力を超えるのは製品の安全上好ましくありません。
イスのミーゼス応力
応力を可視化して表示
肉厚を2mmにすると、許容応力を下回る20MPa程度のミーゼス応力が掛かる結果になりました。そのため、100kgの人が座ってもかなり余裕があるということがわかります。
従来の設計では、設計後に試作品を作り、100kgの重りを置いて耐久性を確認、設計の見直しという流れで設計から製造までの工程を進めていました。構造解析を使えば、設計の段階で許容応力を超えるかどうかを判断することができるため、試験に一回で合格できる製品を作り、開発から製造までのリードタイムを削減することができます。
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