今からおよそ4500年前に建築されたクフ王のピラミッドには、王の間の上に重力拡散の間(Weight relieving chambers)と呼ばれる空間が存在しています。
コンピューターのない時代に設計された重力拡散の間が、本当に王の間の重力軽減に役立っているのかCAEによる解析で検証します。
重力拡散の間という名称は後世の呼び方なので、古代エジプト人が何のためにこの機構をピラミッド内に作ったのかについてはわかっていません。ピラミッドの建造法についても諸説あるので、タイムマシンが発明されない限り、ピラミッドの構造は世界7不思議のままかもしれませんね。
高さ146.59m(建設時)、底辺230.37mの巨大なピラミッドは、現在の技術を使って建設しても工期は5年、最盛期には3,500人の労働者を配置する必要があると大林組が試算しています。
CAEによるピラミッドの構造解析手順
実際のピラミッドは平均2.5tの石灰岩を約270~280万個積み上げたと推測されています。この解析では、ピラミッドが一体構造であると仮定して、重力が構造に与える影響を検討しました。
ピラミッドの建材に使われた石灰岩のヤング率を7.0kgf/cm2、ポアソン比は0.3として応力分布を検討しています。
解析のためにピラミッドを小さなメッシュ(要素)に分割します。要素数は約36,000、1次要素でメッシュを作成しました。
実際にピラミッドを建設する際にはもっと細かいメッシュにする必要がありますが、今回は応力の大小が比較できればいいので、1次要素のメッシュを作成します。
重力の間が存在する場合は、下にある王の間にかかる応力が少なくなることが確認できました。ミーゼス応力の大小を色分けして表示していますが、王の間の周囲は応力が低いことを示す青色で表示されています。
重力拡散の間が存在する場合
ピラミッドの内部構造1
重力の間が存在しない場合は、王の間の周囲は緑色で表示されています。重力拡散の間が存在する場合と比べると、明らかに周囲の応力が高くなっています。
応力を可視化した下図では、ミーゼス応力の大小をカラーリングして表示しています。
重力拡散の間が存在しない場合
ピラミッドの内部構造2
王の間や大回廊では、壁面の角度が鋭角または90°になっていることから応力集中箇所が存在します。今回の解析では重力拡散の間の効果を調べることが目的であるため、応力の最大値は載せていません。
また、応力集中が影響しないようにカラーリングの尺度を同一にしています。(応力値が同じであれば、同じ色で表示されます。)
断面の応力分布を見ると、重力拡散の間が存在する左側の図では、王の間の周囲に応力の低い箇所(青色)があります。特に王の間の上部の応力が低く(青色に)なっていることが確認できます。
一方、重力拡散の間が存在しない右図では、周囲と比べて大きく応力が減少している箇所は見られません。
応力が低いことを示す青色が見られる
周囲と同じ緑色箇所が多い
CAEによる解析で、重力拡散の間による応力軽減効果が確認できました。
この解析はコンピューターによる並列計算を利用していますが、計算に使うコンピューターを4コアに設定して計算を始めると途中で止まってしまいました。コア数を8に増やすと解析が完了したので、普通のパソコンによる同様の解析は難しいかもしれません。
計算時間はスーパーコンピューターを使っているため、それぞれ5分程度でした。メッシュの作成から条件設定、解析結果の表示までのトータルで1時間程度かかっています。
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