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高層ビル群が風に及ぼす影響


          

高層ビルが海陸風の流れを遮ることで、都市部の気温が郊外に比べて高くなるヒートアイランド現象が発生します。世界各地の都市部で気温上昇が観測されており、東京では100年間で気温が約3℃上昇しています。もちろん高層ビル群だけがヒートアイランド現象の要因になっているわけではありませんが、熱の移動に与える影響は大きいことが知られています。

今回は流体解析を使ってビル周辺の風速と風下の風の流れをシミュレーションで可視化することで、高層ビル群が風の流れにどのように影響するのか確かめます。芝浦アイランドの高層ビル群を3Dモデル化して、並列コンピューティングを利用した流体解析により風下の風の流れをシミュレーションします。なお、3Dモデルのビルの高さや形状は正確ですが、流体解析に影響を与えない箇所は一部簡略化しています。

国土地理院の地理院地図(航空写真)を下に表示しています。左写真(1998-1990年)の撮影時にはまだ高層ビルが存在していませんが、現在は高さ約150mの高層マンションやオフィスビルが建っています。


1988-1990年

1988-1990年の航空写真

現在

現在の航空写真

航空写真に基づき3Dモデルを作成、STEP形式のデータを出力して解析ソフトに取り込みます。高層ビルの形状は国土地理院の地図を見ながら作成していますが、高さのデータはwikipedia等を参考にしています。


航空写真を基に3Dモデル化

航空写真を基に3Dモデル化
          

解析ソフトに取り込みメッシュ作成


流体解析では、風の流れを解析する空間と高層ビルの両方をメッシュにする必要があります。並列コンピューティングを使ってメッシュ作成しているため、普通のコンピューターでは1時間以上かかるメッシュ作成も8コア使用することで、5~6分で完了しています。

メッシュを細かく配置するほど解析結果は正確になりますが、メッシュ作成に必要なコンピューターのコア数が増えるため、今回はやや粗目のメッシュに設定しています。


高層ビル群のメッシュデータ

高層ビル群のメッシュデータ

自動メッシュ作成でメッシュを作成していますが、高層ビルとその周囲は細かくメッシュが配置され、ビルから離れた箇所はやや粗いメッシュが配置されています。手動に切替えることでメッシュのサイズを指定することもできますが、今回の解析では高い精度は求めていないので、自動メッシュで作成したメッシュサイズのままで解析します。

     

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境界条件を設定


今回の解析では、東風と南風の2つのパターンで高層ビル群の風の流れを解析します。風速10m/sで風が入り、反対側の面から風が出るように境界条件を設定しました。

最初に東風(下図の右側)、次に南風(下図の下側)が入るように設定して、それぞれの風向きでの高層ビル下流の風の流れを解析します。海から陸へ向かう海風を想定して、東風と南風の2パターンで空気の流れをシミュレーションしました。


空気の入口を設定

空気の入り口

東風の入口を設定(青色面)

空気の入口を設定

空気の物性値を入力


今回の流体解析では空気の流れを解析するので、空気の物性値を入力します。

夏のヒートアイランド現象を想定したシミュレーションを行うため、動粘性係数の値としてよく使われる20℃での15.02☓10-6m2/sではなく、26.5℃の値である15.79☓10-6m2/sを使います。密度や動粘性係数の値は、熱物性ハンドブック(日本熱物性学会)を参考にしています。


材料 動粘性係数(m2/s) 密度(kg/m3
空気 15.79☓10-6 1.206

海からの東風を流体解析


最初に東風が高層ビルにぶつかる場合の風の流れをシミュレーションします。風の流れは目で見ることはできませんが、流体解析によって流速に応じて色分けできるため、風の強い箇所と弱い箇所を可視化することができます。

赤色の線は風速の速い箇所、青色の線は風速の遅い箇所を示しています。風の流れを可視化すると、高層ビルの後方で渦を巻いた複雑な流れになっていることがわかります。


風の流れを可視化

風の流れを可視化

高層ビルの後方に風の渦が発生

高層ビルの後方に風の渦が発生

東風は10/mに設定していますが、高層ビルの上部を流れる風とビルに沿って流れる風により風速が増し、最大風速は約15m/sになっています。


流速によって色分け

流速によって色分け

次に、歩行者に影響する地上付近の風速を可視化して表示します。地面から高さ1.7mの風速を流速によって色分けして表示しています。解析結果では、高層ビル群に当たった風が左右に分かれて流れていることがわかります。また、高層ビル群の風下側では数キロにわたって風が弱い箇所存在しています。


地上の風速

地上の風速

東風時の風速

東風時の風速


高層ビル群から離れた箇所は、一つ一つのセル(メッシュ)が大きく表示されています。そのため、下流の風の流れをより詳細に調べたい場合は、解析精度を上げるためにメッシュを更に細かくする必要があります。

一方、ビルの隙間の風速は滑らかに表示されていることから、十分にメッシュが細かく精度に問題がないと判断することができます。そのため、ビルの谷間風の風速はある程度正確であると考えることができます。


海からの南風を流体解析


次のシミュレーションでは、高層ビル群が南風の流れにどのように影響するか流体解析で確認します。境界面から吹き込む南風を10m/sに設定して、流速によって色分けして風の流れを可視化します。

下図を見ると高層ビルの上部の風とビルの沿って流れる風は10m/sより流れが速くなっています。ビルの風下側では風が渦を巻いて複雑に流れています。


南風の流れを可視化

南風の流れを可視化

高層ビルの後方に風の渦が発生

高層ビルの後方に風の渦が発生

次に、歩行者に影響する地上付近の風速を可視化して表示します。地面から高さ1.7mの風速を可視化して下図に表示しています。解析結果では、ビルに当たった風が左右に分かれて流速が増し、約12m/sの風が流れていることがわかります。また、高層ビル群の風下側では数キロにわたって風の流れが弱くなっています。

地上1.7mの風速

地上1.7mの風速

風下の風の流れ

風下の風の流れ


高層ビル群により風の通り道が阻害されるため、下流側の風速が大幅に弱くなる結果になりました。そのため、高層ビルが少なかった1980年台と比べると、風下の風通しに影響していると考えられます。

一昔前であれば「京」のようなスーパーコンピューターによるシミュレーションが必要でしたが、コンピューターの性能が向上したため専用のスーパーコンピューターを用意しなくても、広範囲におよぶ風の流れを解析できるようになりました。上記のシミュレーションは、計算に使用するコンピューターのコア数を16にすることで、10分もかからずに解析結果が得られています。

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