2019年台風15号により多くの建物に被害が出ました。台風15号は9月9日3時前に三浦半島付近を通過して東京湾を進み、5時前に強い勢力で千葉市付近に上陸しました。
台風の接近・通過に伴い、関東南部を中心に猛烈な風、猛烈な雨となり、特に、千葉市で最大風速35.9m/s、最大瞬間風速57.4m/sを観測するなど、多くの地点で観測史上1位の最大風速や最大瞬間風速を観測する記録的な暴風となりました。
東京都大田区羽田では最大瞬間風速43.2m/s、横浜市では最大瞬間風速41.8m/sを記録しています。KDYエンジニアリングの事務所の近くでも遊歩道の街路樹が倒れるなど、樹木に被害が出ました。
このページでは、台風15号による最大瞬間風速を上回る60m/sの強風が家にどのような影響を及ぼす可能性があるのか流体解析により可視化して確認します。国民的アニメで登場する家を3DCADでモデル化し、最大瞬間風速60m/sではどのような影響が出るのか考察します。
木造2階建て
押し入れに猫型ロボットが住んでいる木造家屋を3DCADでモデル化します。アニメのイメージを参考にしているため、多少の誤差が出ますが、図面があれば正確に再現することも可能です。
今回の流体解析では、玄関および猫型ロボットの住んでいる部屋を正面にし、風速60m/sの風を当てるように解析条件を設定します。
カプセル型の平屋住居
2階建て木造家屋と比較するため、カプセル型の住居も3DCADでモデル化しました。こちらも図面がないため、アニメを基に3DCADで再現しています。
球形の構造物のため、日本で一般的な木造2階建て住居と比較すると強風の当たる平面が少なくなっています。なお、流体解析には反映しませんが、3DCADモデルは好きな色に表面を塗ることが可能です。
流体解析では、解析対象物の表面と周囲の空間を区切りメッシュを作成し、メッシュの頂点ごとに流速や圧力の変化を計算します。今回の解析では強風時の建物にかかる風圧力を求めることを目的にしているため、後背地の小さな渦まで再現する必要がありません。
そのため、建物と周囲の空間に細かいメッシュを配置し、離れた箇所は粗いメッシュを配置しています。メッシュを細かく配置するほど小さな渦まで再現することができますが、解析費用が増えてしまうため、メッシュサイズは目的に応じて適切なメッシュサイズを検討する必要があります。
木造家屋のメッシュ化
カプセル型住居のメッシュ化
メッシュはソフトウェアにより自動作成することができますが、不適切なメッシュサイズが選択される可能性があるため、自動作成したメッシュで構造物が問題なく再現できたことを確認する必要があります。KDYエンジニアリングでは、メッシュを自動作成した後のモデルを目視で確認し、最大メッシュサイズを検討してから手動で条件を設定して再度メッシュを作成します。
風速は60m/sの強風が下図左側から住宅に吹き付ける条件で流体解析を実施しました。風圧力の高い箇所は赤色、負圧になっている箇所は青色に表示しています。
最大瞬間風速60m/sでは、2階建て木造家屋とカプセル型住居のどちらも最大2,400Pa程度の風圧力が作用する結果となりました。JIS A 4706(サッシ)では、最大2,400Paの風圧力に耐えることのできるサッシの等級をS-5としているため、S-5等級のサッシが住宅に使われている場合は、最大瞬間風速60m/sに耐えることができるということになります。
もしも設計風圧力を1,200Paと想定して、S-2等級のサッシを選定した場合は、最大瞬間風速60m/sの風圧力には耐えられない可能性があります。
2階建て木造家屋の風圧力
カプセル型住居の風圧力
流体解析の結果は、無料の可視化ソフト(Paraview)を使って、気流の風速を色分けして表示することが可能です。下図では風速80m/sの気流を赤色、風速0m/s以下の気流を青色で表示しています。
解析結果を確認すると、気流は壁に沿って上方に流れ,屋根面上で流速が大きくなっていることを確認できます。屋根面上では他の箇所に比べ流速が大きいため圧力が低くなり、風圧力はマイナス、つまり上向きに引っ張られる力が働いています。
木造家屋の気流
カプセル型住居の気流
東京都や横浜市などの多くの自治体で環境アセスメントが制定され、ビルや商業施設などの大型商業施設を建築する場合は、事前に風害(後背地の風環境)の評価が求められるケースがあります。
今回の解析は住宅のため後背地の風環境の評価は求められませんが、流体解析により後背地の風の流れも可視化することが可能です。
一般的に住宅は直方体のケースが多いため、上から見ると建物の左右に分離した流れが後方で合流し渦ができ、後背地では複雑な流れが生じます。一方、曲面の多いカプセル型住居は後背地に渦ができず、風がカプセル型住居に遮られるため風速が直線的に遅くなっています。
木造家屋後方の流れ
カプセル型住居後方の流れ
なお、平成12年建設省告示第1454号、第1458号に基づき、設計風圧力を求める際の風速として平均風速を用いることが求められます。上記の解析結果は60m/sという瞬間風速を用いているため、皆さんの住居のサッシにS-5等級のサッシ(2,400Paまで耐えることができる)が使われていないからといって、設計が間違っているというわけではありません。
2階建ての木造家屋では、瞬間風速60m/sの強風の影響により約4,000Paの風圧差が生じています。そのため、屋根の部分は固定されていない瓦が飛ばされる、壁よりも外側に張り出している軒先などに許容応力以上の荷重がかかり、破断するなどの被害が出る可能性があります。
設計風圧力を求める際の風速は、国土交通省告示1454号で定める各地方の基準風速を見ると確認することができます。各地の基準風速は過去の台風の記録に基づいて計算されており、東京23区および横浜市では34m/s、千葉市では36m/sとなっています。台風の多い沖縄県は46m/sとなっているため、本州と比較すると住宅の台風被害は圧倒的に少なくなっています。
風の流れと風圧力の可視化
風圧力に対する家の強さの目安として耐風等級というものがあります。耐風等級1は、極めて稀に(500 年に一度程度)発生する暴風による力(建築基準法施行令第87 条に定めるものの1.6 倍)に対して倒壊、崩壊等せず、稀に(50年に一度程度)発生する暴風による力(同条に定めるもの)に対して損傷を生じない程度とされています。
耐風等級2では、耐風等級1の1.2倍の力に対して倒壊・崩壊、損傷を生じない程度とされています。
近年は流体解析により、住宅に影響する風圧力の計算ができるようになりました。後背地の環境評価のために流体解析をご依頼いただくことはありますが、規模の大小を問わず構造物そのものにどの程度風圧力が作用するのかについての解析については、実はほとんどご依頼いただくことはありません。ビルや公共施設だけではなく、戸建住宅についても風災のリスクを検討するために流体解析を活用し、強風に備えることが可能です。
風圧力を求める場合、計算式に基準風速を代入することで値を簡単に求めることができます。しかし、計算式で算出した値を流体解析の結果と比較すると、地面に対して垂直の面に作用する風圧力と近似しており、負圧箇所との圧力差等は考慮されていません。流体解析では、垂直面の風圧力だけではなく、屋根面上で流速が大きくなるため生じる負圧についても計算することができるため、住宅全体の風圧力の影響をより正確に評価することが可能です。
今後、流体解析が戸建住宅の分野においても気軽に利用されるようになることを期待しています。もちろんKDYエンジニアリングが新社屋を設計する際は、流体解析の結果も活用して自社の建屋を台風時の強風にも耐えることができる構造にする予定です。
KDYエンジニアリングでは、CAEによる設計支援サービスを行っています。CAEを使いこなすのは難しそうだと感じているお客様をトータルサポートでお手伝いします。
3DCADによる対象図形の作成から解析と解析結果の評価を組み合わせたサービスを1件10万円~のお得な価格でご利用いただけます。
解析の対象形状や設計の目的についてお気軽にご相談ください。構造解析・熱解析・流体解析などのサービスを組み合わせて、最適な解析をご提案いたします。