新宿や品川などの高層ビルの密集する地域を歩いていると、強いビル風で髪が乱れたり、傘が飛ばされそうになった経験をお持ちの方も多いと思います。今回の解析では、ビルの形状とビル風の強さの関係を流体解析によってシミュレーションし、ビル風を抑える形状について3種類のビルを比較します。流体解析を使えば風の強さを色分けして表示できるため、普段は見ることのできないビル風を見ることができるようになります。
ビルは底面20m☓20m、高さ120mの四角形の一般的な形状のビルを基準にして解析します。比較するため、四隅をR2m(半径2m)の丸みをつけたビル、円柱形(直径20m)のビルの計3種類の形状で風の流れをシミュレーションします。
3DCADで3種類のビルの3Dモデルを作成後、解析ソフトにデータを取り込み、流体解析を行いました。ビルは高さが120mあるものの、形状が複雑でないため3Dモデルの作成からメッシュ作成まで要した時間はそれぞれのビルで20分程度です。
四角形のビル
四隅R2m
円柱形のビル
流体解析で空気の流れをシミュレーションする空間を自動メッシュ作成機能を使って六角形のメッシュに切ります。ビル風は吹き下ろしとビルに沿って流れる風があるため、ビルの風下側にはある程度の空間を確保します。
このメッシュで囲まれた空間内の流体の動きを解析します。要素の数は約40万で、メッシュ作成時間は4コア使用して、それぞれのビル形状で10分程度でした。
四角形のビルでメッシュ作成
円柱状のビルでメッシュ作成
自動メッシュ作成ですが、四角形のビルでは四隅、円柱形のビルでは上部のメッシュが細かくなっています。手動でメッシュの細かさを変えることもできますが、自動メッシュ作成で十分滑らかな表面形状になっていたため、そのまま流体解析を行いました。
流体解析では、空気の入口になる面と出口になる面を設定します。左側から風速46m/sで空気が入り、残りの4面(3面+上面)から空気が出るように境界条件を設定しました。
風速は台風時を想定して46m/sに設定しています。気象庁のデータによると、東京の最大瞬間風速は46.7m/s(1938年9月1日)なので、風速を46m/sに設定して流体解析を行います。
空気の入口(左)
空気の出口(3面+上部)
今回の流体解析では空気の流れを解析するので、空気の物性値を入力します。
動粘性係数は温度によって異なりますが、解析では台風による強風を想定しているため、よく使われる20℃での15.02☓10-6m2/sではなく、26.5℃の値である15.79☓10-6m2/sを使います。密度や動粘性係数の値は、熱物性ハンドブック(日本熱物性学会)を参考にしています。
材料 | 動粘性係数(m2/s) | 密度(kg/m3) |
---|---|---|
空気 | 15.79☓10-6 | 1.206 |
ビル風を可視化して表示しています。流れの速い場所は赤色、流れの遅い箇所を青色で表示しています。ビル風を可視化すると非常に複雑な風の流れが確認できます。
ビルに沿って流れていた風がビルから剥がれて流れていますが、風速は周囲よりも速くなっています。また、ビルから吹き下ろす風と左右に分かれて流れる風が上から下に向かって流れているため、ビルの風下でも風速が速くなっています。
ビル風を可視化
吹き下ろす風により複雑な流れが発生
歩行者はビル風の影響を最も受けますが、地上付近ではビルの側面に沿って流れる風の風速は、ビルに吹き付ける風(46m/s)より速くなっています。風速を数字で確認すると、赤色で表示される最大風速は80m/sを超えています。
流速によって色分け
流体解析では、任意の地点の流体の動きを時系列で計算することができます。今回の解析では、高さ10m地点での流速を10秒毎に計算して可視化して表示しています。ビルの風下側には渦ができるため、風の流れは周期的に変化しています。
10秒後
20秒後
30秒後
40秒後
50秒後
60秒後
70秒後
80秒後
90秒後
100秒後
ビルに風がぶつかってから10秒刻みで100秒後までの流速を表示しています。解析結果を見ると、流速は一定ではなく時間とともに変化していることがわかります。
四角形のビルの風速を解析しましたが、比較のために四隅を曲面にしたビルと円柱状のビルの空気の流れの可視化して四角形のビルと比べてみます。
高くなるほど風の流れが速くなるため、100mの高さでの流速を3種類のビル形状で比較します。速い空気の流れは赤色、遅い流れは青色で可視化していますが、四角形のビルが最も赤色で表示される流れの速い箇所が多くなっています。
下図を見るとビルの四隅に半径2mの曲面をつけるだけでも、ビル風の影響をかなり軽減できることがわかります。また、ビル形状を円柱状にすると、ビルの周りに沿って流れる非常に強い風の範囲が最も小さくなることがわかります。
高さ100mの風速
四角形のビルの風速
四隅R2mのビルの風速
円柱形のビルの風速
流体解析の結果から、四角形のビルは風下まで流れの速い箇所が存在することがわかります。ビルの四隅を曲面にするだけでビル風の影響を抑えることができることから、都市部のビルの形状を丸みを帯びた形状にすることは、ビル風抑制に効果的だと考えることができます。
円柱状のビルでは回り込む風の影響が最も少なく、歩行者にとって最もビル風の影響を軽減できる形状であると考察できます。そのため、高層マンションが連立する地域では、円柱状のビル形状を採用することで、地上のビル風による速い流れを抑えて歩行者が強風で転倒するなどの事故予防につなげることができます。
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