Home > CAEについてもっと知る > 振動解析-音でワイングラスを割る
応力解析や流体解析などは解析ソフトウェアが普及していることもあり、設計で広く用いられています。一方、振動解析についてはまだ応力解析ほど普及していないため、何ができるのか知りたいと考える方も多いのではないでしょうか?
そこで、このページでは、声でワイングラスを割るという現象を振動解析によるシミュレーションを使って分かりやすく紹介していきます。
振動解析は2段階のステップで対象物の振動による影響を解析します。最初のステップでは、ワイングラスが共振を起こす振動数を計算で求めます。次のステップでは、周波数を変えながらグラスがどのように振動するのかシミュレーションで確かめます。
ワイングラスを振動解析で調べる
物体は特定の周波数で振動すると大きく揺れる「共振」という現象を起こします。下例では振動解析を用いてワイングラスの共振する振動数を計算していますが、目で見て共振する振動数を確認することもできます。その場合は、ワイングラスの中にストローを入れて、もっともストローが揺れる(弾かれる)振動数を探す方法が知られています。また、ワイングラスに付いた水滴の振動を見る方法でも確認することができます。
物体が共振する振動数を「固有振動数」といい、振動解析によってその物体に特有の「固有振動数」が確認できます。揺れ方には横振動やねじれなどの異なる振動があるため、それそれの揺れ方(モード)に応じた固有振動数をコンピューターに計算させて求めます。
下の表はワイングラスの各モードにおける固有振動数を表しています。高次のモードになるほど、固有振動数は高くなります。固有振動数は形状によって異なるため、グラスの厚みや高さなどの形状が異なると違う数値になります。
ワイングラスの固有振動数
振動解析の結果、モード1では1秒間に81回の振動(81Hz)でワイングラスが共振すると判明しました。揺れ方の大きい箇所を赤色、小さい箇所を青色で表しています。
振動解析では、各モードにおけるワイングラスの揺れ方を調べることができます。モードの右横の振動数は振動解析によって求めた固有振動数です。固有振動数と同じ振動数の揺れが外部から加えられると、共振によりワイングラスの振幅が大きくなります。
モード1:81Hz
モード2:87Hz
モード1とモード2では、ワイングラスの上部全体が振動する解析結果になりました。
モード4とモード5では、ワイングラスの縁に振動の大きな箇所と振動の少ない箇所が交互に表れます。共振によりワイングラスの振動が大きくなっていき、やがて振動に耐えられなくなるとワイングラスは割れてしまいます。
モード4:593Hz
モード5:597Hz
モード6:606Hz
モード7:630Hz
モード8とモード9でも、ワイングラスの縁に振動の大きな箇所と振動の少ない箇所が交互に表れて、グラスが波打っている様子がシミュレーションで観察できます。
モード8:1542Ha
モード9:1547Hz
固有振動数が求まったので、次は各振動数でワイングラスがどのように揺れるのか可視化します。振動解析では、対象物上の任意点の加速度、ミーゼス応力、変位などの計算と数値化が可能です。
下図では、ミーゼス応力の大小を色分けして表示しています。応力が小さいところは青色、応力の大きいところは赤色で表示しています。ガラスが振動すると、圧縮される部分と引っ張られる部分が生じます。ガラスは圧縮には強く、引張には弱い性質を持っているので、ガラスを引っ張る力が強くなると割れにつながります。
解析では、モード4~7の固有振動数に近い600Hzでワイングラスに掛かる応力が最大になりました。600Hzで共振してワイングラスが大きく振動するため、応力が強いことを示す赤色の部分がワイングラス全体に広がっています。
500Hz
600Hz
振動解析では、任意の振動数での揺れ方をシミュレーションすることができます。モード8~10の固有振動数が1500Hz付近であることを確認しているため、1300Hzから1600Hzまでの振動数で共振する場合のワイングラスに掛かるミーゼス応力も確認します。
1300Hz
1400Hz
1500Hz
1600Hz
1500Hzの振動数では、ワイングラスの縁に振動の大きな箇所と振動の少ない箇所が交互に表れることが確認できます。しかし、600Hzでは応力が大きいことを示す赤色箇所が多かったのに対し、1500Hzでは赤い色箇所が少なくなっています。
以上の結果から、ワイングラスを割るには固有振動数と同じ600Hzの音を当てることが最も効果的とわかりました。共振することで振動がどんどん大きくなり、やがてワイングラスが割れる結果につながります。
固有振動数と同じ振動を当てることで共振じて、ワイングラスに大きな応力がかかることが振動解析によって確認できました。上例のワイングラスは600Hzの振動で共振するため、600Hzの声で振動させればワイングラスを割ることができると考えられます。
ただし、音は空気中で減衰するため、ワイングラスのすぐ近くで音を出す必要があります。
また、歌声だけで少し離れた家の窓ガラスが割れたり、小鳥が落ちたりといった現象を起こすことは難しそうです。
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